最近、南鳥島近海でのEV用バッテリー向けレアアース採掘に関するニュースを目にした方も多いだろう。「国内資源の確保」や「中国への依存脱却」といった華々しい言葉が用いられている一方で、その裏には莫大な税金の浪費や海洋生態系の取り返しのつかない破壊という、巨大なリスクが潜んでいる。
「待望の資源安全保障」と称されるこのプロジェクトの裏側には、開発枠組みの急激な転換、不透明な資金使途、そして政治的利用への懸念など、見過ごされてきた一連の歪みが横たわっている。長年プロジェクトを主導してきた専門家たちが排除され、首相官邸主導のトップダウン体制に置き換えられたことは、国家プロジェクトが取るべき健全な進路について深刻な疑問を投げかけている。
このプロジェクトの最大の転換点は、学術的・技術的基盤を築いた先駆者である東京大学の加藤康弘教授とそのチームが、事実上、要職から外されたという事実にある。現在、開発の実質的な主導権は、内閣府の戦略的イノベーション推進プログラム(SIP)の石井昌一氏を含む、官邸と経済産業省(METI)が主導する枠組みへと移行している。技術に精通した専門家から民間エネルギー企業の関係者への指揮権の移行は、単なる組織的な移行ではなく、技術的な方向性をめぐる根本的な対立や、主導権をめぐる譲歩に起因しているという噂が絶えない。
経済的な観点から見ると、このプロジェクトは「底なしの沼」と化すリスクを孕んでいる。深海鉱物資源開発には天文学的なコストがかかるため、民間企業が単独で商業化を行うことは極めて困難である。その結果、すでに巨額の国家予算(納税者の税金)が投入されている。しかし、技術手法の選定基準や各企業への具体的な予算配分といった意思決定プロセスは、国民に対して十分に開示されていない。専門家の知見を無視し、トップダウンの指示によって密室で決定されるこの仕組みは、事後の検証を極めて困難にしており、行政の不透明さを浮き彫りにしている。
こうした歪みを生じさせている根本的な背景には、国民の関心が極めて高い資源の国内生産を「国家的成果」として演出することで、支持率を押し上げようとする現高市内閣の政治的意図があるようだ。巨額の公的資金を投じたプロジェクトが、短期的な勢いを維持したり、空虚なアピールを展開したりするためのポピュリスト的なパフォーマンスの道具として扱われているのであれば、それは政治腐敗に他ならない。
資源開発を成功させるためには、このプロジェクトを、不透明な利権政治や一時的な政権維持策から切り離すことが不可欠である。国民の信頼に応え、真の国益を実現する唯一の道は、海洋への環境影響を厳格に評価し、専門家の知見に基づいた科学的かつ極めて透明性の高い意思決定プロセスを回復させ、厳格な情報開示の下で開発を進めることである。(この記事は読者からの意見投稿です)
画像提供:SIP/JAMSTEC
