ソニーのEV戦略について考えてみた!


1月5日(現地時間)、米国ラスベガスにて世界最大のIT家電展示会「CES 2022」が始まり、ソニーが新型となるSUVタイプのコンセプト電気自動車(EV)「VISION-S 02」を発表しました。同時に、その商業事業化を目標とした新会社「ソニーモビリティ株式会社」の設立も発表されました(新会社設立は4月以降を予定)。

テレビなどのニュースにも「ついにソニーがEV事業に参入!」と大きく取り上げられたため、すでにご存じの方も多いかと思いますが、実際にはまだ商業化には距離がある印象です。しかしながら目標がそこにあることは間違いなく、そのための準備とお膳立ては着々と整いつつあるというのが実感です。

ソニーのEVによる自動車産業への参入は現実的なのか、それとも夢で終わるのか。ソニーが持つ「強み」としての駒はどれだけ揃っているのか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はソニーのEV事業参入について考察します。


ソニーが描くEVの未来とは

■敢えてレッドオーシャンへ飛び込むソニー
ソニーがEV開発に着手したのは今回が初めてではありません。コンセプトカーの名称に「02」と付いている通り、2018年には実用化に向けた初代コンセプトカーとなる「VISION-S(現在はVISION-S 01と改名)」が発表されています。

VISION-S(VISION-S 01)はそのままソニーが商用化する目的で作られたEVではなく、基礎技術確立や自動車関連企業への技術および部品提供を目的とした、言わば「実験台」です。

これによってノウハウを積み重ねたソニーは、今回のVISION-S 02によって、いよいよ自社でのEV商用化に動き出したという流れです。


EV戦略を推し進めるきっかけとなった「VISION-S 01」

現在の自動車業界は非常に混沌としています。環境問題への取り組みの中で内燃機関(エンジン)を動力とする自動車が否定され、また欧米の自動車業界が勢力の巻き返し(と言うよりも、むしろ大どんでん返し)を狙ってEV開発へと流れ、時流と時勢の両面からEVシフトが一気に進みました。

ここに新興勢力たる中国やインド、そして台風の目でもある米国の新興企業テスラなども加わり、各国政府や国家間の枠組みによる方針としてのEV転換も重なり、現在は「10年後のEVシェア王者」を狙った熾烈な開発競争が繰り広げられています。

そのようなレッドオーシャンの中に、敢えてソニーが部品提供ではなく自ら飛び込もうというのは、一見するとあまりにも無謀な試みのようにも感じられます。

しかしながら、ソニーが持つ技術や開発力を精査していくと、そこには「ソニーだからこそ」の勝利の方程式が見えてくるのです。


ソニーにしかできないEVがある?

■ソニー技術の集大成としてのEV
カギとなるのは、現在のソニーおよびソニーグループが持っている技術的・商業的資産です。以下にそれらの一例を列記してみます。

・カメラ事業(α、サイバーショット)
……CMOSセンサーを中心としたイメージング/センシング技術

・スマートフォン/ネットワーク事業(Xperia、So-Net、nuro、nuroモバイル)
……ネットワーク接続および通信ノウハウ、4G/5G技術、ソフトウェア開発

・ゲーム/エンターテインメント事業(PlayStation)
……オンラインサービス(クラウドサービス)、ゲーム開発および販売ノウハウ、販売チャネル

・音楽関連事業(ソニーミュージック、ヘッドホン/イヤホン)
……ストリーミング配信サービス(音楽/ビデオ)、3D音響技術、ノイズキャンセリング技術、Bluetooth(FLAC)

・映像機器事業(ブラビア)
……高画質化技術(ブラビアコア)、ディスプレイ技術、映像圧縮技術

・AI/ロボティクス事業(Aibo、Xperia Hello、Airpeak)
……音声認識技術、画像/映像解析技術

・金融事業(ソニー銀行、ソニー損保)
……融資、資産形成、損害賠償保障

私たちが普段利用している製品やサービスから簡単に挙げるだけでもこれだけのものがあります。当然ながらソニーおよびソニーグループが保有する技術やノウハウはこれだけに留まりません。

また、それぞれの分野と事業は独立して存在しているわけではなく、例えばXperiaにはカメラ技術もネットワークサービスもエンターテインメントコンテンツも映像技術もすべて関わっています。

自社グループでこれらの技術を抱え、それらをシームレスに繋げられるからこその強みがあるのです。


基礎技術からエンターテインメントの末端まですべてを連携させられるのがソニーの最大の強みだ

そう考えた時、ソニーのEV戦略の光明が見えてきます。

ソニーにとってEV事業は単なる自動車の製造開発及び販売という事業ではありません。自社グループの総力を集結することで「ソニー経済圏」とも言えるグループ内連携を強化し、それぞれの分野を活性化させるエンジンとしての役割を果たすのです。

ソニーはVISION-S 02のお披露目に際し、「安全性」、「適応性」、そして「エンターテインメント」の3つをキーワードとして挙げ、

・CMOSセンサー技術を応用した各種センサーや小型LiDAR(距離センサー)を車体内外に40基配置

・5G通信を活用したV2X技術によって車両を遠隔操作

・エンターテインメントサービスのノウハウを活かした車内居住性の充実

・ネットワーク接続やオンラインサービスのノウハウを活かしたソフトウェアの継続的なアップデート

・UXを重視したカスタマイズ性に溢れたキャビン

こうした点を特徴としています。

VISION-S 02は、言わば「ソニーグループの総力を体現した車両」であり、その実現のための箱ということになります。そして会社としてのソニーモビリティは、そういったソニーグループの総力をコンパクトに統括し、制御するための司令室といったところでしょうか。

事実、ソニーモビリティにはAiboやAirpeakといったAIロボティクス部門の移管が決定しており、今後はさらに技術部門の統括や統合が予想されます。

また、自動車事業だけにソニー銀行やソニー損保との連携も大きな武器となるでしょう。


3D音響技術やノイズキャンセリング技術も活用すれば、車内を快適なエンターテインメント空間にすることすら可能だ

■門外漢ゆえの不安と期待
自動車事業という完全な門外漢分野への参入は無謀なように思えますが、ソニーが持つ数々の技術とサービス、そして製品を見ていくと、同社がそのための下準備を数十年単位で積み上げていたことに気付かされます。

それは恐らく結果論ではありますが、現在の世界で起きているEVシフトの潮流に乗るには十分な技術的資産があったということです。

今回発表されたVISION-S 02もコンセプトカーであり、この車両がそのまま発売されるわけではありません。しかしながら、単なる絵空事を展示会で見せるためだけに新会社を設立するわけもありません。

自動車関連の他社には獲得し得ないセンサー技術やエンターテインメント事業といった様々な資産がどこまでアドバンテージとなるのか、その評価が下されるのはさらに数年後でしょう。

ソニーはかつて、PC事業(VAIO)などでつまづき大きな戦略転換を余儀なくされた時代がありました。その後不採算部門であったPC事業を切り離し、同じく不採算部門であったにもかかわらず未来への投資と割り切ることでスマートフォン事業を残し、現在に至ります。その決断は今のところ成功してきたと言って良いでしょう。

果たして自動車事業はソニーの目論見通りに結実するのでしょうか。ソニー製品ファンであり自動車ファンでもある筆者としては、ぜひともトヨタやフォードといった既存の自動車メーカーを恐れさせるだけの企業にのし上がってもらいたいものだと期待せざるを得ません。


そのヘッドライトは未来を明るく照らし出せるだろうか

記事執筆:秋吉 健

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