オンラインイベントの未来について考えてみた!


筆者は公私ともに、オンラインイベントというものと縁があります。例えば仕事ではコロナ禍によって激減した現地取材に代わり、オンライン発表会やオンライン展示会といったものの取材が増えました。また私事ではゲーム関連のリアルイベントもオンライン化が進み、その視聴の機会が増えています。

昨年末はコロナ禍が一時的に沈静化したこともあり、オフラインイベントの開催が若干戻ってくる様子もありましたが、今年1月に入ってから爆発的な第6波が発生し、再びイベント業界や展示会関連各社に暗雲が垂れこめています。

コロナ禍がさらに長期化することが確定的となった今、私たちはオンラインイベントを恒常的に利用するスタイルへと切り替えることができるでしょうか。またこれまでのオンラインイベントの取り組みはどこまで人々に浸透したのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はオンラインイベントの現在と未来を考察します。


コロナ禍はイベントの在り方すらも変えてしまった

■データが教える「人々のイベント離れ」
はじめに、オンラインイベントとは何かというところから考えてみましょう。オンラインイベントと一言で言っても、その内容は様々です。

・音楽ライプおよびコンサート
・スポーツ観戦(eスポーツ含む)
・同人即売会(コミックマーケットのようなもの)
・展示会および商談会
・博物館および美術館
・スポーツや著名人などのファンイベント

細かな分類で言えばまだまだありますが、共通しているのは「これまで実際に現地に行かないと楽しめなかったこと」をオンラインで実現しつつ、誰でもどこからでも楽しめるようになったという点です。

一方で、イベント会場の空気感や臨場感、お祭りとしての楽しさの演出などでは、どうしてもオフライン(現実の会場)と比較して弱くなってしまうデメリットもあります。


ライブ会場の興奮や熱狂をオンラインでどう伝えるべきか

人々はコロナ禍が始まった2020年以降、オンラインイベントをオフラインイベントの代替として広く利用するようになったのでしょうか。

MMD研究所が1月12日に公開した「配信型オンラインイベントに関する調査」によると、オフラインイベントに参加した人の割合は2020年3月以前(コロナ禍以前)は11.2%だったのに対し、2020年4月〜2021年9月には2.4%へと激減、コロナ禍が小康状態となっていた2021年10月以降では3.2%と若干持ち直したものの、当然ながらコロナ禍以前の水準には遠く及ばない数字となっています。

同じ期間のオンラインイベントの割合を見てみると、2020年3月以前では3.8%、2020年4月〜2021年9月では7.6%、2021年10月以降では4.9%と、やはりオフラインイベントの数値とは真逆の傾向となり、コロナ禍によってオンラインイベントが増え、その沈静化とともにオンラインイベントへの参加が若干下がったという結果になっています。

そして何より注目すべきは、コロナ禍が長期化するほどにオフライン・オンラインに関わらず、人々のイベントそのものへの参加が減少し続けているという点です。

つまり、人々は長期化するコロナ禍においてイベント参加への渇望をオンライン対応によって満たす一方で、イベントそのものへの興味を失ってしまった人も少なからず存在したということです。


そもそも8割近くの人々はイベントに興味を持っていなかったが、その割合が年々増え続けていることになる

■イベントをオンライン化する際の注意点
人々がイベントそのものから興味を失い始めている要因はいくつか考えられます。例えばコロナ禍による流動的なイベントの開催状況です。

オフラインでのイベントのキャッチコピーの定番と言えば「毎年恒例の」や「伝統行事」などといった言葉があるかと思いますが、コロナ禍によってオフラインイベントが開催できなくなり、2020年には手探り感が拭えないままオンラインに切り替えて開催していたものが、2021年には緊急事態宣言が解除されて再びオフラインに戻ったり、逆にオンライン化を推し進めてオフラインとオンラインの同時開催を行ったりと、イベントごとに流れが大きく変わりました。

この大きすぎる変化と少なくない混乱に、人々がついて来られなかったという点は否めません。

・オンライン開催されてもアクセスの仕方が分からない
・オンラインの観戦チケットをどこで買えば良いか分からない
・昨年のオンライン開催が稚拙過ぎて今年も期待できない
・友人と一緒に楽しめないのではイベントを観る意味がない

これら以外にもまだまだ理由はあるでしょう。

人々が各種イベントにおいて「伝統」や「例年通り」という流れを好み重視する理由の1つには、安全且つ安定したイベント運営や約束された高いイベントクオリティを楽しめるから、という安心感があります。

そういった安心感の基盤が、オンラインイベントにはまだ存在しません。それゆえにイベントを素直に楽しむことができず、その僅かなストレスの積み重ねがイベントから足を遠ざけ、興味を失わせる一因となっているのかも知れません。


コロナ禍はオフラインイベントだけではなく、イベント自体から人々の興味を失わせはじめている

さらに、イベントの種類によっても人々の離脱状況は変わります。

イベントへの参加方法別に見た「参加したイベント」の調査項目を見ると、音楽ライブやコンサート、さらに博物館や美術館のように、音楽や芸術だけではなく現地の雰囲気(臨場感や現場感)もすべて含めて楽しむことを目的としたイベントでは、オンラインイベントの利用率がオフラインイベントの利用率と比較して軒並み減少しています。

一方、アイドルや音楽アーティストによるファンイベントだけは、ほぼ唯一と言って良いほどオンラインイベントの利用率が圧倒的に高くなりました。

つまり大きな会場を用いたイベントの概念や楽しみ方は、当然ながらオフラインを前提としたものであり過ぎたためにオンライン化が難しく、一方でファンイベントのようなユーザー個人がアーティストとの距離の近さを楽しむためのイベントだけは、むしろオンラインとの相性が良かったということになります。

その証拠に会場型のイベントであっても、小規模な音楽ライブや静かに視聴することを目的としたミュージカルなどではオンラインイベントもそれなりに利用され、巨大なスタジアムの雰囲気もまるごと楽しむスポーツ観戦は、やはり大型の音楽ライブと同じようにオンラインイベントの利用率が大きく下がっています。

これらのデータは、オフラインイベントをオンライン化する際にそのイベントがオンライン向きであるのかどうかをよく検討する必要があることを示唆しています。


例えば美術館は、美術館という「場」に流れる高尚な雰囲気を楽しむ風潮があるため、オンラインイベントにはとても不向きと言える

■技術不足はアイデアでカバーするしかない
それでは、やはりオンラインイベントは全体として不人気のまま終わってしまうのでしょうか。筆者個人としてはそうは感じていません。その鍵を握るのはVRであり、メタバース関連の技術とアイデアです。

これまでに挙げてきた調査結果を見ても分かるように、人々はイベントに「場の雰囲気」や「臨場感」を求めています。ただ音楽を聴きたいわけでもスポーツを観たいわけでもありません。それだけであればストリーミング配信のミュージックビデオを観たり、テレビのスポーツ中継を観れば良いだけです。

オンライン上で如何にして「会場にいる」という雰囲気を作り出すのか、それが最重要です。そしてそれを実現するものこそがVR技術です。

人々を仮想空間に作り出したイベント会場へと案内し、そこで多くの人々と同じ時間を共有して楽しんでいるという感覚を与えることが必要です。個人で楽しんでいるという感覚ではなく、誰かとともに楽しみ話題を共有できるという安心感が必要なのです。

また、現在のVRデバイスはまだまだ稚拙です。巨大なVRゴーグルと両手に持ったコントローラーは純粋に没入して楽しむには煩雑すぎ、そして何より初期投資や扱い方の習熟に多くのお金と労力を要します。

理想は眼鏡のように軽く初期投資が少なく、そして扱い方の簡便なデバイスが登場することですが、それには技術的ハードルをいくつも超えなければなりません。両手にコントローラーを持つことなくジェスチャーのみで操作できたり、視点操作のみで完結するような技術およびUIも必要になるでしょう。


VRは間違いなく楽しい。だがその世界を楽しむためのハードルが一般人にはまだまだ高い

単なる視聴コンテンツとして従来のオフラインイベントをオンライン化する現在の流れはあまり良くありません。それは人々がイベントそのものから興味を失い始めているデータが物語っています。かと言って現在のVR技術やメタバース関連の表現力は、人々に場の空気感や臨場感を手軽に感じさせるほどには至っていません。

道具が揃わないうちに、コロナ禍によって半ば強制的に訪れてしまったオンラインイベント化の流れは、現状あまり良い方向に進んでいません。

このまま雑なイベント開催を続けてユーザーに飽きられてしまうのか、それとも表現方法そのものを変えて新しい楽しみ方を提案していけるのか。技術が伴っていないからこそ、アイデアで勝負しなければいけない正念場が来ています。

例えば2021年10月にKDDIが開催し、述べ55万人もの集客に成功した「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021」は、オンラインイベントの1つの試金石となったように感じます。


VRゴーグルを必須としない点も参加しやすかった(あればより楽しめたがスマートフォンのみでも十分楽しめた)

単なるオフラインイベントのオンライン化ではなく、ユニークなアバターの採用やVR空間を活用した探索型ゲームなど、オンラインでしか楽しめないアイデアをふんだんに取り入れたことが成功につながった要因の1つです。

人々にイベントの楽しさをより深く知ってもらうためにも、新しい時代と技術に合わせた新しいアイデアが必要です。そしてそれは現在の技術レベルであっても不可能なことではないとも感じます。


困難な時代だからこそ、アイデアを振り絞ろう

記事執筆:秋吉 健

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